弱起(じゃっき)とは、西洋音楽用語のひとつで、楽曲が第1拍以外から開始すること。また、楽曲の途中にあっても、あるフレーズが、小節の最初からではなく、その前の小節の途中から開始すること。また、その部分。
弱起のことをアウフタクト(独:Auftakt)とも言い、むしろその方が日本では一般的であるが、ドイツ語のAuftaktの語には、次のような意味もある。
弱拍のこと。
詩学で、強勢のない音節のこと。
西洋音楽にあっては、拍は、強拍のあとにひとつまたは複数の弱拍が後に置かれ、それを組み合わせて拍のまとまりと考える。拍のまとまりの中で中心となるものが小節であり、その組み合わせが拍子である。したがって、音楽のまとまりも強拍から弱拍に流れる。しかしながら、強拍の前に準備的な拍(または拍の一部)が置かれる場合がある。これがアウフタクトである。
アウフタクトは、ヨーロッパの言語における冠詞や前置詞のようなもの、また、詩行が冠詞や前置詞で開始するようなものとして説明されることが多い。実際、西洋音楽と結びつきの強いドイツ語などにおいて、名詞の前に置かれる冠詞や前置詞には強勢がない。従って、冠詞や前置詞で開始する詩を歌詞として曲を作るならば、冠詞や前置詞にはアウフタクトを充てるのが自然な方法である。
前置詞的意味合いから、西洋音楽を「強拍+弱拍(強拍の後に弱拍)」ではなく、「弱拍+強拍(強拍の前に弱拍)」の組み合わせで捉えるべきだという考えもある。市川宇一郎は自著の中で、アウフタクトは曲の先頭に対するアップビートであり、弱起に割り当てる英語が見つからなかった(既にアップビートが別の意味で使われてしまっていた)ため、同じ意味を表す言葉をドイツ語から持ってきたのだという説を記している。曲の途中で小説の先頭からフレーズが始まらないのも同じ理由であり、その意味でアウフタクト=アップビートだと記している。
弱起の楽曲にあっては、曲の最初の小節は、小節全体は書かれず、小節の後半の必要なだけが書かれる。このような小節を、不完全小節と呼ぶ。また、楽曲の最後も、弱起の分だけ拍を削り、曲頭と合わせて1小節分の長さとするように書かれる。この最後の小節も不完全小節と呼ぶ。ただし、特にある程度以上の長さを持つ楽曲では、曲の最後を不完全小節としないことも多い。
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シンコペーション(syncopation、切分法)とは、西洋音楽において、ひとつの音がより劣位の拍からより優位の拍に鳴り続けることによって生じるリズムのことである。
たとえば、ある小節の弱拍から、小節線と、次の小節の最初に置かれる強拍までタイによりひとつの音としてつながっていれば、それはシンコペーションのリズムである。このとき、後の小節の最初の強拍が、つながった音のはじめまでさかのぼって移動すると考えられることがある。
同じように、4拍子の小節の弱拍である2拍目から中強拍である3拍目にひとつの音としてつながっていれば、これもシンコペーションのリズムである。このとき、中強拍が2拍目にさかのぼって移動すると考えられることがある。
同じように、ある拍の後半から、次の拍にひとつの音としてつながっていれば、これもシンコペーションのリズムである。このとき、拍が次の拍の頭から音の最初にさかのぼって移動すると考えられることがある。
より細かいリズムにおいても同様に考えられる。
拍の移動については、このように前に移動すると考えるのが通常であるが、あるシンコペーションでない2つの音が、それぞれその音の半分の長さだけ遅れて発音されたためにシンコペーションとなったようなリズムの場合に、拍が後ろに移動すると考えることがある。
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弱起は、1拍目以外の拍のオモテで音楽が始まること。メロディの始点があること。
シンコペーションは、ある拍のウラからその次の拍のオモテまでメロディが続いていること。